1987 年 1987 巻 3 号 p. 556-562
10-(1-ピレニル)デカン酸(PDAと略す)の水中における会合体について,蛍光分光法により検討した。pH5.0の緩衝溶液中,PDAはミクロクリスタルとして分散し,モノマー蛍光以外に,430nm付近に構造のある会合体発光を示した。この系では,PDA会合体からPDAモノマーへの励起エネルギー移動が観察された。一方,pH9.0の水溶液中,低濃度(1×10-6mol.dm-3)領域では,モノマー状態で溶解し,2×10-5mol.dm-3以上のPDA=濃度領域ではミセルを形成した。PDAミセルは,モノマー蛍光のみを示し,PDA会合体からモノマーへの励起エネルギー移動が進行した。臨界ミセル濃度以下の低濃度PDA水溶液に,NaClを添加すると,無蛍光性会合体が生じ,この場合には,PDAモノマーから会合体へのエネルギー移動が起こることが,蛍光の励起スペクトルおよび減衰曲線の測定結果から示唆された。PDA-ステアリン酸混合系においては,水-空気界面に単分子膜が形成され,その累積膜の蛍光スペクトルには,モノマー発光以外に,エキシマー蛍光が観測された。モノマーおよびエキシマー蛍光ともに,その減衰曲線は多成分的で,励起エネルギー移動がやはり進行するものと思われ,累積膜中でも,PDAのピレニル基は,一部不規則な配置をした無蛍光性会合体を形成するものと推論される。
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