1994 年 1994 巻 1 号 p. 56-61
ジフェニルアミン(DPA)のカルバゾールへの光環化反応は励起三重項状態(T)から生ずるジヒドロカルバゾール(M)を経由することが知られている.カルバゾール生成の量子収率(φc)はクロロメタン(Q)の添加により顕著な影響を受ける.[Q]の関数として表したφc(φc(Q))は凸状の曲線を示す.すなわち,Qは光環化反応を促進もし,また抑制もすることになる.本研究はジフェニルアミン類の光環化反応におけるQの役割を明らかにすることを目的とする.
DPAの蛍光はQ添加によって顕著な消光をうける.この蛍光消光の速度定数(k2)はQの電子親和力の増大と共に大になることから蛍光状態(S1)の失活はS1状態のアミンからQへの電子移動によることがわかる.しかしQによるS1の失活だけでは扱ったQのすべての濃度にわたるφcの変化を説明することはできない.φc(Q)のシミュレーションからQによるMの脱水素が光環化を促進し,一方QによるS1とTの失活が光環化を阻害するとすると実験結果とよく合うことがわかった.このシミュレーションで著者らは反応促進係数(Fa)と反応抑制係数(Fr)を導入したが,これらはもちろんQの性質に依存する.FaとFrの対数を各QのKqに対してプロットすると直線が得られた.このことから反応促進も反応抑制も蛍光消光と同じように電子移動を重要な過程として含んでいることが明らかになった.なお反応促進と抑制の化学機構について詳しい検討を行い,またN-置換体とN-無置換体との相違についても論じた.
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