西日本皮膚科
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症例
高齢者破傷風の治療経験
阪口 英酒井 和彦
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1990 年 52 巻 4 号 p. 696-700

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抄録

82歳女子。昭和63年1月11日, 露出部に熱傷を負つたが放置していた。受傷3日目に左足の腐敗に気付き近医に入院したが, 切開排膿などの処置はなされなかつた。受傷後7日目, 当科転入院時には, 左足は発赤腫張し, 末梢側は壊死に陥り, 激痛を訴えていた。切開を加えると, 悪臭のある膿汁と気泡が大量に噴出した。皮下の壊死病巣は足関節を超えて, 下腿へと拡つていた。下肢X線単純撮影では, 左下腿下半部まで皮下気泡像を認めた。膿汁の嫌気性培養ではclostridumは検出されなかつた。入院後, 直ちにdébridementを行うとともに, 創洗滌, 局所酸素療法, 抗生物質の投与などを開始した。受傷後14日目に左下腿膝下部にて切断し, 断端は開放創にした。手術後3日目に突然, 全身の疼痛, 筋強直, 発熱などが出現し, 次いでけいれんを認めた。破傷風を疑い抗破傷風免疫ヒトグロブリン1万単位を点滴静注したが, 抗けいれん薬の処方量不足のため大量の発汗などによって水分を喪失し, それに対する補液が不十分であつたために, 脱水性ショックに陥つた。その後ジアゼパム40mg/日, 8回分服(胃管を通して)によつて, けいれんはコントロールすることができた。筋強直が消失するまでには約3ヵ月間を要したが, 退院させることができた。自験例を通して, 破傷風の診断, 治療, 予防法について報告したい。

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© 1990 日本皮膚科学会西部支部
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