抄録
クモ刺咬症の診断は虫体の確認と医療サイドの充分な知識が必要なため, 報告例は意外に少ない。今回我々はカバキコマチグモと同定しえた1例を含めクモ刺咬症を3例経験した。いずれも局所症状として腫脹は軽度であるにも拘らず激痛を伴うことが特徴的であった。3例中2例は全身症状を伴う大利分類IV度(重症)であったが, 副腎皮質ステロイド剤の全身投与が著効を示した。本邦におけるクモ刺咬症について文献的検索を行ったところ, 中央医学雑誌における1954∼1997年のクモ刺咬症の報告は54例であり, 今回の3例を含めて総計57例であった。このうちカバキコマチグモによる確診例が35例, 推定された3例も含めると38例となり, 国内で報告されたクモ刺咬症はその約2/3がカバキコマチグモによるものと考えられた。また全身症状を伴う大利分類IV度(重症)を来した14例中13例がカバキコマチグモによるものと考えられた。すなわちカバキコマチグモ刺咬症患者の約3人に1人が全身症状を伴う重症であった。近年国内において外来種であるセアカゴケグモの発見報告が相次いでおり, 今後クモ刺咬症の更なる増加が十分予想される。皮膚科医を始め医療従事者側がクモ刺咬症に対し, 充分な認識を深める必要があると思われる。