2002 年 99 巻 9 号 p. 1085-1091
症例は64歳,常習飲酒家男性.昭和60年よりアルコール性脂肪肝,平成9年よりアルコール性肝線維症と診断されていた,平成10年7月より著明な腹水貯留が出現し,各種保存的治療に抵抗性であった.静脈造影および血管内超音波検査にて肝部下大静脈および右・中・左肝静脈は,その各流出部において狭窄像を示し,静脈圧は,肝静脈と下大静脈の間に最大で68mmH2Oの圧較差を認めた.また同狭窄部位からの静脈壁生検より,内膜の線維性肥厚を呈する血栓性静脈炎と診断された.以上より,本症例の門脈圧亢進の成因としては,アルコール性肝線維症に加えて肝静脈流出部の狭窄によるBudd-Chiari症候群が関与していると推察された.本症例の難治性腹水に対して,肝静脈流出部狭窄へのバルーン拡張術に加えて経頸静脈的肝内門脈静脈短絡術を施行したところ,門脈圧は低下し,腹水は著明に減少した.