主催: 社団法人 日本農村医学会
1. 病棟での細菌感染アウトブレイク 「A病棟で大腸菌O-18による腸炎が急増しています.」検査室からの連絡で調査を開始したICTを,激震が襲った.「緑膿菌感染症のアウトブレイクも起きている!」 病床数68の外科系混合病棟Aでは平成17年4月中旬から大腸菌O-18による腸炎患者が増加していたが,便中緑膿菌検出も高頻度だった.過去1年間の調査では19名から緑膿菌を検出し,初検出部位は主に消化管と気道だった.検出された緑膿菌は耐性菌が多く,入院期間が長引くとともに耐性が高度化する傾向を認めた.緑膿菌・大腸菌感染のアウトブレイクがあると結論し,保健福祉事務所へ連絡するとともに,対策に乗り出した. 院内感染対策の基本は「感染源対策」と「感染経路遮断」である.保菌患者の病室履歴頻度は看護師詰所近くの病室で高かった.病棟内巡視では_丸1_詰所内の流しが雑然,_丸2_病棟内各所のカーテンの汚れ,が挙げられ,便器周囲の汚れは目立たなかった.細菌検査では,給食・配膳関係,便器・汚物処理槽に異常を認めず,詰所内流しに置かれた医療器具洗浄用スポンジから一般緑膿菌を検出した. 手洗いを含む標準予防策の徹底をはかり,環境消毒,洗浄用スポンジの毎日交換と再利用時の煮沸消毒などを行った.これらの経過中,病床数177の当院ではA病棟における細菌汚染を職員一同が極めて深刻に受け止めるとともに,知恵を出し合って入院患者の安全を守ろうとする機運が高まった. その後,膀胱カテーテルを留置した同病棟患者の尿からMDRPを新規に検出した.尿関係の感染源を改めて見直した現場スタッフにより,蓄尿回収用共用バケツの存在が明らかとなり,そこからMDRPを大量に検出した.感染源をついに発見したのである.発見が遅れたのは,スタッフ達に(まず無関係)という思いこみがあったためと思われる. 蓄尿回収法の改良により,緑膿菌院内汚染は治まった.以上から,A病棟における緑膿菌感染アウトブレイクは蓄尿回収用バケツを感染源,回収手順を感染経路とした可能性が高く,大腸菌O-18による腸炎アウトブレイクは標準予防策の不徹底に起因した可能性が高いと結論した. 2. 関連施設におけるノロウィルス感染アウトブレイク ノロウイルス感染が全国的に大流行した平成18年度の冬,入所者60名,職員40名の老人施設Bで,平成19年1月末からノロウイルスによる急性胃腸炎が集団発生した.同施設では,自宅で急性胃腸炎を発症し回復期の認知症老人を短期入所させた事から,汚染が始まった.生活空間を共有した入所者2名が1月28日に発症し,29日に5名,30日に5名と次々に伝染した. 31日朝には県保健福祉事務所へ集団発生を届け出,立ち入り調査および「環境消毒」と「隔離」の指導を受けた.消毒手順は次亜塩素酸希釈液(0.02%)を噴霧後,乾拭き・換気とし,消毒回数は基本が1日2回,その他随時とした.また,発症者を部屋単位でまとめ,なるべく出歩かない様に誘導するとともに洗面用具の管理を行い,リネン類を清潔区域に保管した.汚染された衣類はその場でビニール袋密封した. 以上の対処により居住スペース間の発症者拡大を抑える事ができたが,最終的には15日間で入所者の約半数(28名)と職員4名が発症した.徘徊を含む認知症利用者が多い老人施設では,感染対策が困難であると実感させられた.