日本農村医学会学術総会抄録集
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第60回日本農村医学会学術総会
セッションID: S2-1
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食から考える農村地域での健康維持
-病院NSTの果たす役-
*小林 真哉
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キーワード: シンポジウムII
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抄録

 ひとたび健康を損なうと摂食機能は最初に障害されるもののひとつであり,医療の現場では,患者の健康管理および治療に携わる過程で,絶食,点滴,治療食,食事指導等の栄養に関する手段を繁用する。それらをより効率的・機能的にチームで行う治療がNST(nutrition support team:栄養サポートチーム)である。当院は入院患者の約4割が80歳を超える,へき地中山間部にある200床規模のケアミックス型の病院であるが,平成17年7月よりNST を発足させ介護病棟・一般病棟の入院患者に対して積極的に携わってきた。その過程で,十分な栄養素を必要量摂取することは,基礎体力を向上させ,健康維持につながるとの観点から,各職種が入院前の在宅における栄養管理・食育の重要性を再認識した。かつては,食・栄養の院内外での医療啓発活動は,管理栄養士・保健師の領域であったが,NST の登場により各職種がそれぞれ専門の立場から参入し,院内・外での活動内容を充実・展開してきた。更にその活動を継続するにあたり,当地域においては,高齢化・過疎化・インフラ整備不良等が住民の健康に非常に影響することが実感された。地域医療を守る立場からは,住民の栄養・食事状況をより詳細に把握する必要性が求められ,今回,地域支援の一環として地域全域を対象としたアンケート調査を約10,000人(内65歳以上6,500人)に実施し,生活基盤・ライフスタイルを知る機会を得た。その解析の結果,当地域では,過疎化・高齢化が急速に進み高齢者の占める割合が40%以上の自治区も多く存在しており,高齢者世帯においては独居の割合が非常に高く女性ではこの傾向がより顕著であることがわかった。更に,抽出した高齢者87名(平均年齢81.2歳,男性30名,女性57名)には簡易型自記式食事歴法質問票(BDHQ ; brieftype self-administered diet history questionnaire)を用いた栄養状態調査と日常生活の実態を検討した。栄養摂取状況は食事摂取基準に基づいた,(1)現状維持,(2)要注意,(3)食生活の改善が必要,の3段階分類では,食物繊維,食塩,脂質,飽和脂肪酸等項目で(2)(3)の割合が高かった。在宅における栄養の摂取は家族構成,ライフスタイル等により多様であり,必要な栄養量を各自が把握することは,普段,意識しないことではあるが,大変重要である。また,現在の場所に住み続けたいと思う割合は加齢とともに増加しているが,障害として「日用品の買物」「医療や介護」「一人暮らしになってしまう」など不安要因も明らかになった。今後,住み慣れた土地で健やかな日常生活を送るために,調査で明らかとなった日常生活での実態を検証し,在宅における栄養管理の重要性を啓蒙しつつ,医療のみならず保健・福祉も含めた総合的な事業展開を視野にいれた,地域コミュニティーで院内・外の住民に対する活動を展開していきたい。

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© 2011 一般社団法人 日本農村医学会
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