1958 年 32 巻 8 号 p. 643-646
田植後約1ケ月生育の農林21号稲苗を材料として稲熱病菌胞子の発芽に作用を及ぼす揮発性成分の検索を行った.揮発性成分の主体を占めるものは中性区分であるが,これを温アルコールで処理する事により可溶部のA物質と不溶部のB物質に分けられる.A物質は分子式C25H44O3を有し稲熱病菌胞子の発芽に顕著な促進作用を示す.その作用は100~0.01 p.p.m.の広い濃度範囲で常に促進的である点が特徴である.我々は此の物質をOryzarolと命名した. Oryzarolは強い稲藁に類する悪くない香りを有して居り, sterolのLiebermann呈色反応を顕わす.
B物質は精製を繰り返して純白,無臭,融点57~58°の蝋状物質が得られる.稲熱病菌胞子の発芽に及ぼす作用は1p.p.m.を界として高濃度では阻害的に低濃度では促進的に作用する.
終りに臨んで本研究に御鞭撻を戴いて居る恩師東大名誉教授藪田貞治郎博士及び東大教授坂口謹一郎博士,住木諭介博士に謹んで感謝の意を表します.又有益な助言を戴いた東大農学部有馬啓助教授並びに天羽幹夫氏に厚く感謝します.尚元素分析並びに赤外吸収測定は武田薬品研究所松川泰三博士の御厚意に依った事を記して茲に衷心より御礼申し上げます.