日本農芸化学会誌
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糖精製に利用するイオン交換法の研究(第9報)
クロール形として用いるR_??_NX型アニオン交換樹脂の長期使用上の特性に就いて
岩科 進
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1959 年 33 巻 6 号 p. 437-444

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抄録

R〓NX型アニオン交換樹脂I型多孔質性製品のAmberlite IRA-401をクロール形として用いる糖精製法に於て,色素汚染に対する対策として間接的処理に炭酸法,活性炭法及び骨炭法を前処理として採用し,直接的処理としての回生法に(A) NaClO及びHCl併用処理, (B) HCl単用処理を採用して, 400サイクルに到る長期継続実験を行い,その特性の変化について検討した.尚回生処理は10サイクル毎に行い, (A)では交互に実施した.その結果は次の如く要約される.
(1)清浄効果は(A), (B)両回生処理法の相違によって著しい影響を与えられない.
(2)イオン交換能力は明らかに酸化剤としてのNaClO回生法を実施した(A)に於て, 200サイクル以後その低下が顕著であり, 400サイクル経過後(B)より10.09%小となった.
(3)無機物の汚染は(B)の方がより小であり,その成分分布は(B)に於てBが認められる他は概して著しい相違は認められない.
(4)サイクルの増加に伴う樹脂母体の物理的強度の低下度合は明らかに(A)が劣り,電子顕微鏡像による対脂粒子表面構造の観察に於て(A)による場合は母体の損傷が明確に指摘出来ると共に, (B)に於てはこれと樹象的に殆んど損傷は認められなかった.亦,物理的強度の低下は400サイクル経過後に於て(A), (B)夫々対照品の52.0%,61.9%迄低下した.
(5)樹脂母体の化学的損耗の要因とされる色素汚染物質の動態と,回生処理との関係を赤外分光スペクトルによって考究し,汚染樹脂では1040cm-1に特異吸収を認め,又1110, 1370及び1600cm-1附近にも夫々顕著な吸収を認めたが, 1040cm-1の吸収を除きこれらの吸収は回生処理の実施により復帰することを確認した.
(6)これらの吸収の生因については目下研究中であるが, 1040cm-1はアルコール又はエーテル結合, 1110cm-1はアルコール,脂肪族アルデヒド,脂肪族ケトン又はエーテル結合を有する何れかの物質,並びに1600及び1370cm-1の吸収はカルボン酸基によるものと推定した.
(7)以上の成績から糖精製に於けるイオン交換樹脂の長期使用に際しては,能力低下の原因となる色素汚染に対処する間接的な対策としての前処理法の実施と,直接的な対策としての回生法の適切な運用によって,導入するイオン交換法の経済的評価を支配する樹脂の耐用限界,即ち命数(life)を有利に確保し得ることを示唆したものである.
終りに臨み,電子顕微鏡写真の撮影に関し終始御便宜を賜りました日立製作所多賀工場伊藤忠治氏始め精器研究試験室の関係者各位,並びに日製産業KK今井一夫氏に厚く感謝の意を表します.
尚長期間に亘る通液実験に協力された当所浅見利治,鈴木純子,中島芳枝の三君に厚く御礼申上げます.

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