日本農芸化学会誌
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酵素糖化ブドウ糖原料としての澱粉の液化性に関する研究(第6報)
発酵および酸処理の影響
前沢 辰雄早川 幸男大久保 増太郎新堀 二千男
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1967 年 41 巻 8 号 p. 365-369

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抄録

(1) 5月から夏を越して翌年3月まで約10カ月,澱粉に水を張って貯蔵し発酵を起こさせた試料と,比較のため防腐用として塩酸および界面活性剤DBSを添加して発酵を抑えた試料について液化性を調査した.それによると,激しく発酵した澱粉は原澱粉(干し粉)に比べて難溶性澱粉が80~100%増加した.これに反して発酵を抑えた澱粉は25~35%程度の増加に止った.一方,強い酸性(0.25%塩酸)で貯蔵した澱粉では8倍以上の増加を示した.
(2)酸処理澱粉としてよく知られているリントナー澱粉の液化性を調査した.澱粉を7.5%の塩酸に浸漬し,低温(4~10°)および28°の恒温に7日間経過させたものについて試験したところ,低温区では難溶性澱粉の増加が30%程度であったが, 28°区では6倍以上の増加を示した.
(3)生澱粉分解能を有するEndomycopsis fibligerの酵素と細菌α-アミラーゼを使って生澱粉を50°, 48時間分解させ,残った澱粉の液化性を調査したところ,酵素の使用量を増し分解の進んだ区ほど難溶性澱粉の発生量が多かった.
(4)以上の成績から,発酵および酸処理した澱粉の液化性悪化の機構について次のように考える.澱粉に微生物が繁殖したり,あるいは酸処理によって澱粉が部分釣に分解されると,澱粉分子や分子の束を連結構成していた網の目構造が切断されてゆるみ,粒子内の分子鎖の可動性を増す.その結果,分子鎖が接触衝突する機会が増え,衝突によって分子鎖が会合して強固な束を形成し,液化酵素に抵抗するようなものができる.この場合,澱粉が湿潤状態でかつ温度の高い方が分子鎖が動き易く,それに応じて難溶性澱粉の発生量も増加する.

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