抄録
(1) 醤油乳酸菌P. halophilus T-187がL-リンゴ酸をL-乳酸に変換するいわゆるMLF活性を持つことを見出した.
(2) 本菌によるMLFはピルビン酸を経由しない直接の脱炭酸反応によって進行し, malo-lactic enzyme活性によるものと推定された.
(3) 部分精製酵素標品による反応の至適pHは5.8付近にあり,活性の発現にはNADとCo2+またはMn2+が必須であった.また分子量は約115,000と推定された.
(4) 耐塩性乳酸菌であるP. halophilusのmalolactic enzyme活性はP. acidilactici由来のものに比較して高い塩濃度でもよく作用した.
(5) T-187菌のmalo-lactic enzymeはL-リンゴ酸を含有しない培地で培養しても構成酵素として生産されたが,本菌はL-リンゴ酸を単独の炭素源としては生育できなかった.
以上の事実より,醤油諸味中におけるリンゴ酸の消失現象はmalo-lactic enzyme活性を有する醤油乳酸菌によるMLFの結果であると考えられる.