農業経済研究
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報告
卸売市場動向からみた福島県産農産物の被害状況
菊地 昌弥
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2013 年 85 巻 3 号 p. 140-150

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抄録

本報告では野菜を中心とした福島県産の主要農産物を取り上げ,重要な販売先となっている卸売市場での価格と数量の動向を捉え,東日本大震災が発生した2011年以降の状況を発生以前(2007~2010年の平均)と比較し,受けた影響の詳細とその要因を解明することを目的とした.農畜産業振興機構(ALIC)が公開している卸売市場データの考察および東京都中央卸売市場の卸売業者,JA全農福島,うつくしふくしま農業法人協会,福島県農業会議,大手スーパー等で行ったヒアリング結果をもとに考察を加えた.第1に,東京都中央卸売市場(東京市場)と大阪府中央卸売市場(大阪市場)では震災以降において従来とは異なり数量と価格の一般的な関係性が確認できず,構造が変化している.とりわけ東京市場で顕著である.第2に,最大の販売先である東京市場での動向として注目されるのは,①震災以前と異なり数量が減少し価格も下落する状況が全体的傾向として確認され,しかも2011年から2012年にかけてそれが深化している,②その一方で2011年に影響を受けなかった品目が一部存在する,③2011年から2012年にかけて価格が回復傾向にある品目も一部存在する,の3点である.第3に,上記の3つの動向は要因が単独で存在しているのではなく,異なる要因が複合し発生している.必需的でありなおかつ出荷最盛期に他の国内産地の供給量が少なかった品目については数量と価格の関係が成立するが,それに該当しない品目の場合,④東電の原発補償を背景に産地側の価格交渉力が低下するケースがあり,そのことが①の実態を誘発する原因となっている.東電の補償はいつまで継続されるのか明確になっていないだけに,今後を見据えると中長期的には打ち切られた時のことを想定し産地としての供給力や交渉力を回復させていくための具体的方策を立案し実行していくことが必要になろう.

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© 2013 日本農業経済学会
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