農業経済研究
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農産物の放射性物質汚染に対する消費者評価の推移
氏家 清和
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2013 年 85 巻 3 号 p. 164-172

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抄録

2011年3月に発生した東日本大震災により東京電力福島第1原子力発電所において放射性物質が環境中に大量漏出する深刻な原子力災害が発生した.その結果,発電所が立地している福島県,ならびにその周辺各県の農畜水産物に対する放射性物質汚染が懸念され,これらの産地の農畜水産物が消費者に忌避される事態が生じており,現在でもこれらの地域の経済や社会に深刻な影響をもたらしている.これらの影響をどのように克服するかを考える上で,汚染に対する消費者評価の実態を把握することは重要な課題といえるだろう.本稿では,ほうれん草を事例に原発周辺地域産の農産物に対する消費者のWTA(willingness to accept)関数を推定する.さらに,これらの農産物に対する消費者評価を産地に対する評価と汚染による健康リスク評価に分解して,消費者評価の推移のありようを定量的に分析する.分析の結果は次の通りである.まず,京浜地域と京阪神地域で,消費者評価の様相が大きく異なっていることがわかった.リスク評価には地域差がほとんどないが,産地評価は京阪神地域の方が悪かった.産地評価とリスク評価の挙動は大きく異なっており,これらを分解して捉えた本稿のアプローチは有効だったといえるだろう.さらに,汚染水準とWTAとの関係性についても検討した.その結果,汚染水準─WTA曲線の形状は,原点に対して凹形の構造を持っていることを指摘した.すなわち,汚染の水準が低い場合には水準の変化により消費者評価が大きく変化するが,水準が高い場合には,消費者評価は変化しにくいと考えられた.2012年4月に行われた放射性物質汚染に関する安全基準の改定による変化は,それまでの汚染水準─WTA曲線に沿った変化であると解釈することができ,消費者のWTAを大幅に低下させるには至っていないことを指摘した.

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© 2013 日本農業経済学会
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