主催: 日本薬理学会
会議名: 看護薬理学カンファレンス 2018 in 東京
回次: 1
開催地: 東京
開催日: 2018/10/20
鼻腔から肺胞に至る管腔状の器官である呼吸器系は、その役割であるガス交換を 行うために直接外気に曝され、常に感染のリスクに曝されている。従って、呼吸器疾 患は主に感染と炎症を主体とするものが多い。そのため、呼吸器疾患の治療には古 くから、主にステロイド薬のような過度な炎症反応を抑える抗炎症薬と抗生剤が用い られてきた。しかし、肺炎が死亡原因の第3〜4位に位置している現状は、超高齢化 社会を迎えつつある我が国において、呼吸器疾患に対する従来の薬物治療の原則 が必ずしも通用しなくなっていることを示唆している。また、現代の呼吸器疾患では 感染症だけでなく、気管支喘息、慢性閉塞性肺疾患(COPD)および間質性肺炎など の慢性炎症性の疾患の患者数も増加している。これら慢性疾患では長期の治療が 前提となり、基礎的な治療に加えて咳や痰などのQOL低下の原因となる症状にも配 慮する必要がある。
本講演では、下記の内容を中心に、呼吸器疾患の治療に用いられる種々の薬物の 効果とその問題点について、最新の研究成績を交えて薬理学的側面から紹介したい。
1)気道炎症に伴う咳に中枢性鎮咳薬は無効? 咳は延髄の咳中枢を介した神経反射であり、咳中枢を抑制するコデイン等の中枢性鎮咳薬は理論上、すべての咳に対して有効なはずである。しかし、気道に炎症があると、コデインの効果は著明に減弱する。
2)痰は炎症の結果であり、炎症を鎮めれば痰も治まる? 咳や痰などの気道疾患時の症状は炎症の結果であり、基礎となる炎症を鎮めれば、これらの症状も緩和できると古くから考えられてきた。しかし、吸入ステロイド薬で、良好な管理ができている気管支喘息の患者では、痰すなわち気道粘液の過剰産生が問題となること は多い。我々もダニ抗原を用いてマウスに誘発した喘息モデルで、ステロイド薬抵抗性の気 道粘液の産生亢進が生じることを見出している。ステロイド薬投与下での気道粘液の産生 亢進には、これを抑制する新たな薬物が必要である。
3)高齢者の呼吸器感染症を予防するための免疫活性化薬はない? 高齢者ではインフルエンザを始め、ウイルス性の上気道炎への罹患が、肺炎のきっかけとなる場合が多い。高齢者では免疫機能が低下しており、この免疫系を活性化させることが、感染予防に繋がると考えられるが、癌免疫療法薬のニボルマブ(オプジーボ)を除けば、現 行の西洋医薬品に免疫機能を高める薬物はほぼない。高齢者や免疫能の低下した患者に は、補剤と呼ばれる漢方薬を用いることが行こうかも知れない。