主催: 日本薬理学会
会議名: 看護薬理学カンファレンス 2018 in 東京
回次: 1
開催地: 東京
開催日: 2018/10/20
臨床麻酔科学は生理学、解剖学、そして薬理学の三領域の基礎医学の上に成り 立っ。そのため、麻酔研修において薬理学の教育は非常に重要な役割をなす。麻酔 時の薬物投与は、外来病棟では使用しない薬剤を患者投与し、その薬剤効果の消失 を手術終了時に目指すという、特徴的な使い方である。また通常医療では侵襲が生 体に加わらない時の薬剤反応性を観察しているが、麻酔中は大小の生体侵襲が継 続的に繰り返される時間の薬剤の反応性を予測する。そのため麻酔に使用する薬剤 の薬理作用を学習するうえで必要となるのが、侵襲による生理学的反応と薬剤による その中和効果である。今回、麻酔管理下の患者の安全管理を麻酔薬の薬物動態に 視点をおき、理解を促すシミュレーション教育を含めて報告する。
一例をあげると麻酔導入時の薬剤投与と喉頭展開・気管挿管を考えればよい。プ ロポフォールで入眠し、筋弛緩薬投与後にこれらの侵襲的操作をすると、血圧上昇 のタイミングや血圧上昇の程度は個々の患者により異なる。侵襲反応を抑えることが、 薬剤投与目的の一つであるため、血圧上昇を許容範囲内にする薬剤の投与量、併用 薬の使用また最大効果発現時間を考えた侵襲手技など、教科書で理解する薬力学 だけでなく、薬物動態を理解した薬物投与の教育が安全な麻酔管理に必要になる。
わたしは、これらを複合させて理解を促すために患者サイズシミュレータを使用し た教育を行ってきた。医学部学生、研修医、麻酔科後期研修医に始まり、周麻酔期 看護師や手術室・ICUで勤務する看護師にも教育を行っている。シミュレーションの 進行は、救急初期診療ABCのAB、気道確保と換気を重点においた麻酔導入から始 まる。このシミュレーションでは心拍数や血圧は固定させて、気道・換気の生体反応 に視点をおく。次はC、循環を重点おいた麻酔導入である。麻酔薬作用から生じる循 環抑制作用と気管挿管時の侵襲的刺激反応(心拍数増加と血圧上昇)について視 点をおいたシミュレーションをおこなう。麻酔薬の最大効果発現時に侵襲的手技を 行う必要性が、モニターの数値と音で実感できる。そして、最後にすべてを複合させ て通常の麻酔と同じシミュレーションを行う。このように、一つ一つの生理的要素に 視点を置きながら、薬剤投与を伴う手技を何度も繰り返し行うことで、安全な麻酔へ の理解を深めていきたい。