神経科学の目覚ましい発展は, 社会科学における理論に関する神経生理学的背景を理解する上で有効な手段や知見を提供してきた。社会的交換理論に関しては, これまでの研究により利他行動や規範の遵守に関する社会的選好が報酬予期やリスク評価に関連する脳領域の活動を基盤としていることが明らかにされた。この事実は, 一般的な適応的行動をもたらす生物学的基盤が社会的行動においても適用されるということを示唆する。このような背景から, 本論では, ヒトの社会的意思決定の神経基盤を示す実証的知見を概観し, さらにその適応的役割について進化理論の観点から論ずる。特に, 脳の適応メカニズムが形成する社会的行動の情報源の一つとして, 他者との互恵的関係に着目する。