看護薬理学カンファレンス
Online ISSN : 2435-8460
2022横浜
セッションID: 2022.3_ES-2
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看護薬理学教育セミナー2
腸内環境の発達と母乳由来プロバイオティクス
*倉原 琳
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抄録

本シンポジウムは以下二つの話題についてご紹介致します。

1.新生児における腸内環境の発達と母乳の役割

2016 年より、医学雑誌「Lancet」は「Lancet Breastfeeding」シリーズを設け、 母乳育児によって、多くの疾病の予防に繋がり、82 万人の命を救うことができる という調査結果が発表された。母乳育児によって、乳幼児期の感染症予防や小 児期以降の肥満・糖尿病・心血管疾患・炎症性腸疾患など多くの疾患への予 防効果が報告されているが、母乳がどのような機序で、母乳育児によって形成さ れる腸内細菌叢が関与しているのか、さらには、母乳が治療的に有効であるか ということに関しては、多くの不明な点が残されている。デンマークの 300人の 乳児の研究によると、母乳授乳児は消化管保護作用を有する乳酸菌・ ビフィズ ス菌を増やす作用が報告された。メタゲノム解析により、乳児の腸の免疫形成 に影響を与える菌が母乳に含まれていることが明らかにされている(Kim et al. Exp. Mol. Med. 2020)。母乳に含まれる菌の役割についての最新知見をご紹介 したい。

2.母乳由来プロバイオティクスの炎症性腸疾患(IBD)改善効果

2017 年のハーバード大学による世界規模の調査結果 (Xu L, 2017, Aliment. Pharmacol. Ther.) によると、一年以上の母乳育児によって、白人では 22%の IBD 罹患リスク低下に過ぎなかったのに対して、アジア人では 69%もIBD 罹患 リスクが低かった。母乳育児が IBD の罹患リスクを顕著に低下させるとする知 見を受け、我々は海外共同研究により開発した母乳由来乳酸菌 Lactobacillus rhamnosus Probio-M9 および難消化性ミルクオリゴ糖を用いた実験を行い、炎 症性発癌モデルマウスにおいて、炎症を抑制し、腫瘍数を劇的に減少させること を見出した。母乳由来プロバイオティクスは、安全性が担保され、生きたまま腸 に到達して消化管にて有益な効果を持つ。すなわち、母乳由来プロバイオティッ クスおよび母乳成分をもとに治療効果の高いIBD 治療薬を開発できることが示 唆された。消化管免疫維持における母乳育児の重要性は既に知られており、今後、様々な疾患に対する母乳由来プロバイオティックスの治療効果を検証し、母 乳に含まれる菌による腸管免疫再構築の観点から母乳育児の重要性を強調・発信したい。

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© 2022 本論文著者
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