看護薬理学カンファレンス
Online ISSN : 2435-8460
2022横浜
セッションID: 2022.3_S1-1
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シンポジウム1
がん薬物療法による悪心・嘔吐の制吐療法
*小林 正悟
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抄録

悪心・嘔吐、口内炎、便秘・下痢などの消化器症状は、小児がんに罹患した多くの患児が経験し、重症化すれば化学療法の継続が困難となることもある。 特に化学療法による悪心・嘔吐は治療の全経過を通じて反復して体験され、化 学療法の副作用として最も患者に嫌われるものの1つである。患児のQOL(生 活の質)を著しく低下させ、その後の治療への不安を増大させるばかりでなく、 辛い治療体験の記憶がその後の児の発達に大きな影響を及ぼすこともあり、そ の予防対策は患児の化学療法に対する恐怖心をなくし、計画通りに化学療法を 実施するうえで重要である。

抗がん剤による悪心・嘔吐は、①第四脳室に存在するCTZ(chemoreceptor trigger zone)、②消化管、③前庭器官、④大脳皮質(感覚や精神刺激)の4つ の経路を介して延髄外側網様背側に位置する嘔吐中枢が刺激されることによっ て引き起こされる。また、症状の発現時期によって①急性(化学療法開始後 24 時間以内に出現)、②遅発性(化学療法開始後 24 時間以降に出現)、③予期性(以前の化学療法による悪心・嘔吐の経験から、治療開始前に出現)、④突出性(制吐剤の予防投与を行っていても出現)の4つに分類される。 抗がん薬による悪心・嘔吐に対して使用される主な制吐薬は NK1受容体拮抗薬、5-HT3 受容体拮抗薬、副腎皮質ステロイドである。これらに加え、ベン ゾジアゼピン系抗不安薬、H2 受容体拮抗薬、プロトンポンプ阻害薬等を補助 的に使用する。

悪心・嘔吐に対する予防対策は、化学療法の開始前から悪心が解消される時 期までに行われる。初回の化学療法からそれぞれの催吐リスクに応じた適切な 制吐薬の使用がルーチンワークとして行われるべきである。催吐リスクが高度な 化学療法では、5-HT3 受容体拮抗薬、副腎皮質ステロイドに加えて NK1受容 体拮抗薬を併用する。予防薬を使用していても生じてしまう突出性悪心・嘔吐 に対してはオランザピンやドパミン受容体拮抗薬の使用を検討する。特に年長 児において認められやすい予期性悪心・嘔吐に対してはベンゾジアゼピン系抗 不安薬の使用を考慮する。最も重要な対策は、急性および遅発性の悪心・嘔吐 を経験させないことであり、初回の化学療法から十分な悪心・嘔吐の予防を行 うことが予期性悪心・嘔吐の予防となる。

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© 2022 本論文著者
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