抄録
「紅葉」の吟詠は中日古典詩歌の重要なテーマの一つであり、唐詩においても和歌においても、「紅葉」が題材とし
て多く詠まれている。これらの詩歌の解読を通じて、中日古典詩歌における「紅葉」の心象表現を検討した。本論文においては、まず、「紅葉」と組み合わせる語彙を解明し、それぞれ自然物及び色彩との組み合わせから「苔」と「錦」を選別して本研究のキーワードとした。「紅葉」と「苔」の組み合わせは、和歌においては稀な表現であるが、唐詩においては一定の使用率に達しており、主題を浮き出させ、景物描写によって「詩言志」の主旨を達成する役割を果たしている。一方、「紅葉」と「錦」の組み合わせは、「錦」自体は中国の文章からの影響を受けているものの、この組み合わせは日本独自の表現であり、「紅葉」を「錦」に喩える「紅葉の錦」という和歌特有の表現によって、独自の風格が形成され、秋の美しさを賛美するという主題も際立たせている。