マスト細胞は骨髄の多能性血液幹細胞由来の細胞で,末梢組織において成熟分化する.全身のほとんどあらゆる臓器に亘って分布し,その数はリンパ球の総数にも匹敵するとされており,特に皮膚や気道,消化管粘膜などの外界に直接する臓器の血管周囲に多数存在することが知られている.この位置取りは,マスト細胞が外界からの抗原(アレルゲン)に曝されアレルギーのエフェクター細胞として働くばかりではなく,感染防御や免疫系の基礎的な領域においても重要な役割を演じていることを示唆するものである.本記念講演では,最近明らかになってきたマスト細胞の多彩な役割の中で,IgE受容体(FcεRI) を中心に我々が解明してきたその活性化と制御の分子的な仕組みについて紹介し,アレルギーの新しい分子標的薬の開発に向けた取り組みについても言及する.