2026 年 85 巻 3 号 p. 137-148
人工知能 (AI) の劇的な進化は,医療分野にも多大な変革の波を引き起こしつつある.1950年代,「AIの父」と呼ばれたAlan Turingや,「Artificial Intelligence」を初めて提唱したJohn McCarthyら,先駆者の貢献から始まり,現代の深層学習や生成AIに至る概念と歴史的進化を理解することは,医学医療の分野に携わるものにとって,避けて通ることのできないものとなった.
Transformer理論の発明を起点としたAIのパラダイムシフトは,GPT,Geminiなどの多様な最新基盤モデルの出現へとつながり,それらはたゆみなく機能改善を競い合っている.さらに,自律的にタスクを遂行する「Agentic AI」やロボティクスを通じて患者ケアに直接介入する「Physical AI」などの出現により,AIが人間を超える「汎用人工知能 (AGI)」や「シンギュラリティ」の実現が,真剣に議論され始めている.
臨床,研究,医学教育,病院経営の現場では,多様なAI活用ツールの開発と導入が進んでおり,画像解析を担う大規模視覚言語モデル (Large Vision Language Model LVLM) や,診療などの環境AI書記 (Ambient AI Scribe),医療文書作成支援,治験患者抽出などをはじめ,様々な領域でAIはその価値を不動のものとしている.
一方で,AIの倫理的・法的・社会的課題 (ELSI) が,世界的にも大きな注目を集めている.ブラックボックス性,ハルシネーション,情報セキュリティ,さらには倫理的課題が今後AI自体の存立をも左右するであろう重大な問題を内包している.
AIが定型業務を自動化するにつれ,医師の中核的な役割は「決断と責任,そして共感」へと移行していく.AIが極限まで進化して社会に完全に溶け込んだとき,医師(人間)とAIとの間にはどのような関係性が成立・発展していくのか.私たちは今,まったく未知の世界へと大きな一歩を踏み入れている.