抄録
飛騨山地北部は,古くからしばしば地すべり・山崩れ・雪崩等の自然災害に見舞われてきた地域である.日本三大崩れの一つとして名高い「稗田山崩れ」は,調査地域の南部に位置する.これらの災害の多くは,この地域の持つ複雑な地質学的条件に起因しているが,1996・1997年の小谷村の豪雨災害では多くの人命が土石流の犠牲になっている.
本報告では,この地域の自然災害の素因について検討し,「白馬大池角礫層」の存在が重要な役割を担っていることを明らかにした.この礫層は,姫川層群・蛇紋岩・来馬層・石阪流紋岩などの西南日本内帯を構成する古期岩類を不整合におおい,第四紀の白馬大池火山岩層に不整合におおわれて本地域一帯に広く分布する.岩相やその層序的な特徴から,この礫層は,氷期の周氷河環境下で形成された可能性が高い.また,この礫層の岩相や分布の特徴からみて,この礫層は本地域における第四紀の造構作用や火山活動の影響を強く受けたものと思われる.本地域の急峻な山地斜面に広がるという本礫層は,豪雨や地震などの影響を受けやすい不安定な条件下にあることを意味している.