市立大町山岳博物館研究紀要
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最新号
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  • 鈴木 啓助
    2025 年10 巻 p. 1-6
    発行日: 2025/03/31
    公開日: 2025/05/01
    研究報告書・技術報告書 オープンアクセス
     高瀬川は,飛騨山脈のふたつの主稜線に挟まれており,多くの降水量がもたらされていると考えられる.特に冬季には北西からの季節風に対して風下になるため,多量の降積雪量となることが推定できる.しかしながら,高標高地域で降積雪量を算定することは容易ではない.本論では,高瀬川の融雪期流量から,高瀬川上流域内の降積雪量を間接的に算定し,その年々変動を検討する.高瀬川流域内の降水量観測地点の標高と年降水量は直線的な関係を示し, 標高とともに降水量が多くなる.このことからも高瀬川流域の高標高地域では降水量が多くなることが推定できる. 高瀬ダムにおける季節平均気温は,春季のみ有意水準5%以下で統計的に有意に上昇傾向にあるが,ほかの季節では統計的に有意な変動傾向は認められない.高瀬ダムでの年平均気温にも弱い上昇傾向が見られるのは,春季の気温の上昇傾向が寄与していると考えられる.高瀬ダムでの季節降水量は,いずれの季節も統計的に有意な変動傾向を示さないが,夏季と秋季の季節降水量はtau 値がマイナスであり,極めて弱い減少傾向である.一方で,冬季の季節降水量のtau 値はプラスを示し弱い増加傾向である.高瀬川流域の1989 年から2023 年までの年流出高の年々変動は, 統計的に有意な変動ではないが,右肩上がりの傾向が読み取れる.高瀬川流域における5 月から7 月までの月平均流出高は,月降水量に比較して極端に多い.流域からの流出高が降水量を上まわることは,水収支式では成立しないことである.これは,冬期間に流域内に大量にもたらされた積雪が,5 月から7 月の間に融雪したことによると考えることができる.中部山岳の高標高地域では,半年にも及ぶ長期間にわたり積雪が堆積して水資源として貯留されることから,雪は「天然の白いダム」であると考えることができる.高瀬川の5 月から7 月の間における流出高から降水量を差し引いた水量を,流域内の積雪総量と仮定して年々変動を検討すると,1988 年から2023 年の間では,統計的に有意ではないが,弱い増加傾向にある.少なくとも最近36 年間では,高瀬川流域の降積雪量は減少していないと言える.
  • 永田 伸
    2025 年10 巻 p. 7-16
    発行日: 2025/03/31
    公開日: 2025/05/01
    研究報告書・技術報告書 オープンアクセス
     本研究は、山岳文学の書き手および山岳文学研究の対象がエリート層の登山家に限られてきたという点に対して、百瀬慎太郎の紀行文や随筆が新たな視座を与えることを提起する。これらの文章を分析するにあたって、文化地理学的なアプローチとして「風景」という語そのものの再考を図りつつ、近代の日本ならびに大町にみられた山の風景に対するまなざしの変化に着目する。そして、慎太郎による「風景の発見」の過程を明らかにすることで、近代期における山の風景の見方についてより総体的な把握を試みるものである。  近代期の登山家は、論著や紀行文を通じて自身の風景の見方を示した。慎太郎も家業を通じて交誼を得た登山家や彼らの綴る文章にならって山の風景をまなざしていたのであるが、そこに地元の登山案内人との関係性も入り混じるなかで、慎太郎にとって北アルプスの風景は関連する人物との思い出が結びつき一体となってまなざされるものとなっていた。  「山を想へば人恋し」という言葉を端緒として、「風景」という語の持つ意味とその豊かさについて考察する。
  • ―日本産草本植物の生活史研究プロジェクト報告第17 報―
    千葉 悟志, 白井 伸和, 四方 圭一郎, 有川 美保子, 宮澤 陽美
    2025 年10 巻 p. 17-24
    発行日: 2025/03/31
    公開日: 2025/05/01
    研究報告書・技術報告書 オープンアクセス
     種子は重力散布で,博物館では5 月下旬から散布がはじまった.夏に博物館で播種した種子の多くは翌春に発芽し,最終発芽率は平均で90%を超え,なかには100%に達するものもあった.また,夏に発芽した全17個体は越冬後も16 個体が生存していて,ミヤマオダマキは発芽率が高く,かつ実生の生存率も高いものと考えられた.地下茎は,二次根茎で根茎には側芽が1,2 個生じ,通常,側芽は頂芽優勢によって休眠芽となることが多く,成長しないが,実際は頂芽がある場合でも側芽が発達することもあると考えられた.オダマキ属には,自家不和合性および自家和合性が知られ,ミヤマオダマキは,除雄処理では結実が見られず,袋掛け処理および無処理において発芽能力を持つ種子の結実が認められ,これらは,受粉により結実が生じていることを示唆するものと考えられた.白馬岳の観察ではミヤマオダマキの花には,長舌種のトラマルハナバチおよび短舌種のオオマルハナバチの2 種が訪花していたが,訪花したほとんどが短舌種のオオマルハナバチで,開花が生じると高い割合で距に穴が開けられていた.度重なる盗蜜訪花によって生じた距の破壊は,蜜源の喪失であり,無報酬は適法訪花者の訪花また結実に影響を与える可能性が考えられ,実際にマルハナバチにより花粉が媒介されているのかはわからなかった.一方,ミヤマオダマキへ訪花したミツバチ上科ハナバチ群の1 種およびヒラタアブ亜科の1 種の訪花も見られ,これらの行動が自殖および他殖に効果をもたらすのか検討が必要である.
  • 竹村 健一
    2025 年10 巻 p. 25-32
    発行日: 2025/03/31
    公開日: 2025/05/01
    研究報告書・技術報告書 オープンアクセス
     竹村(2024)は,大町北東方の中山高原(旧大町スキー場)付近の大町市総合射撃場敷地内に露出する大町テフラ層について,層序と鉱物分析を報告した.その場所の南側に位置する大町市が管理する一般廃棄物最終処分場跡地にも大町テフラ層が露出している.この露頭について,柱状図の作成と全層準の帯磁率を測定し,砂粒の粒径分析および相当層の鉱物組成との関係を検討した.いわゆる“ローム層”(風成塵や火山砕屑物などを含む褐色の粘土質土壌のこと)の帯磁率に関する研究は,中国大陸のレス(黄土)との関係も含めて1990 年代~2000 年代に盛んに議論されてきた.大町周辺の大町テフラ層も厚いローム層を含むが,帯磁率についての詳細な報告はこれまでになかった.他地域の研究やレスとの関係も検討することにより国際的な研究の発展にも寄与できると考える.
  • 岡本 真緒
    2025 年10 巻 p. 33-34
    発行日: 2025/03/31
    公開日: 2025/05/01
    研究報告書・技術報告書 オープンアクセス
  • ―文書「金像地蔵尊施財稟」文政8 年(1825)―
    関 悟志
    2025 年10 巻 p. 35-38
    発行日: 2025/03/31
    公開日: 2025/05/01
    研究報告書・技術報告書 オープンアクセス
     「金像地蔵尊施財稟」と題す本史料は、文政8 年(1825)に信州松本町の立山講が寄進した銅造地蔵菩薩半跏坐像に施財を行った施主宛ての證印・支證である。これまでに大町市内で現存が確認されていた江戸時代の立山信仰に係る仏像建立の證印・支證は、このほかの別史料1 点のみであった。このたび、本史料があらたに確認され、令和5 年(2023)に大町市文化財センターに寄贈されたことから、本文書について詳細な画像や翻刻等を掲載することで、その史料情報を広く共有したい。
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