種子は重力散布で,博物館では5 月下旬から散布がはじまった.夏に博物館で播種した種子の多くは翌春に発芽し,最終発芽率は平均で90%を超え,なかには100%に達するものもあった.また,夏に発芽した全17個体は越冬後も16 個体が生存していて,ミヤマオダマキは発芽率が高く,かつ実生の生存率も高いものと考えられた.地下茎は,二次根茎で根茎には側芽が1,2 個生じ,通常,側芽は頂芽優勢によって休眠芽となることが多く,成長しないが,実際は頂芽がある場合でも側芽が発達することもあると考えられた.オダマキ属には,自家不和合性および自家和合性が知られ,ミヤマオダマキは,除雄処理では結実が見られず,袋掛け処理および無処理において発芽能力を持つ種子の結実が認められ,これらは,受粉により結実が生じていることを示唆するものと考えられた.白馬岳の観察ではミヤマオダマキの花には,長舌種のトラマルハナバチおよび短舌種のオオマルハナバチの2 種が訪花していたが,訪花したほとんどが短舌種のオオマルハナバチで,開花が生じると高い割合で距に穴が開けられていた.度重なる盗蜜訪花によって生じた距の破壊は,蜜源の喪失であり,無報酬は適法訪花者の訪花また結実に影響を与える可能性が考えられ,実際にマルハナバチにより花粉が媒介されているのかはわからなかった.一方,ミヤマオダマキへ訪花したミツバチ上科ハナバチ群の1 種およびヒラタアブ亜科の1 種の訪花も見られ,これらの行動が自殖および他殖に効果をもたらすのか検討が必要である.
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