2020 年 5 巻 p. 7-10
絶滅危惧種や希少種が生息している生息地現地で行われる保全を域内保全という。野生個体が現存しているライチョウにおいてはこの域内保全が保全施策の基本となる。個体数の減少が著しかった南アルプス白根三山では、孵化後1か月の間、雛を人為的に保護するケージ保護が2015年から2019年まで行われた。2017年からは高山帯において捕食者の除去を併用することにより、2019年には1980年代に確認された63のなわばりの半数を越え、35なわばりまで回復した。また、ケージ保護した雛は北岳を離れ塩見岳や赤石岳といった山岳まで分散したことが確認されており、南アルプス全体の個体数の増加に寄与していることがわかった。さらに、2018年には約50年前にライチョウが絶滅した中央アルプスに雌1羽が飛来したため、2019年には飼育ライチョウの野生復帰に向けた技術開発のため中央アルプスの雌が産んだ無精卵と乗鞍岳の個体が産んだ有精卵を入れ替えることによって雛が生まれるかどうかが検討された。この事業により、入れ替えた有精卵を中央アルプスの雌が抱卵することにより雛が孵化することが明らかになった。ライチョウの域内保全では、これまでは行われてこなかった国立公園内における積極的な保全政策の実施により、短期間で様々な成果が得られた。今後はさらなる広域的な個体数の回復や絶滅個体群の復活を通して、ライチョウが高山で安定的に生息できる状態を目指していく。