抄録
政治的機会構造概念を中心にした社会運動研究は、その隆盛に比して、概念レベルでの定義づけや分析上の有効性の範囲が曖昧なまま残されていた。本稿では、政治的機会構造概念をその思考前提とともに検討したうえで、政治アリーナヘの積極的な参入を企図しない社会集団による運動の生起のタイミングは、政治的機会構造によっては律されないと主張する。むしろ、運動生起のタイミングはその社会集団の持つイデオロギー特性と集団の社会全体の中に占める位置によって規定される。この観点から江戸期日本の農民運動の主体たる農民集団を検討した結果、運動のタイミングは政治的機会構造よりもむしろ経済構造の変動により大きく規定されていると考えられた。この主張の妥当性を時系列データを用いて検証した結果、主張は支持された。