人々が資源を過剰に利用するために共有地が崩壊してしまう「共有地の悲劇」は,社会的ジレンマ問題の典型例としてよく知られている.共有地の悲劇を回避するためには,資源の利用者を地元民に制限し,利用者同士が相互監視をおこなうような社会設計が必要とされてきた.そのいっぽう,人々が資源を過少にしか利用しないことで当事者以外に負の外部性を生じてしまう,新たな「共有地の悲劇」が,特に日本の山林などで問題になっている.利用者を制限するという方法では,この共有地の悲劇を回避することは不可能である.そこで本稿は,利用者の制限を解き放ち,外部から利用者をその環境へ招くことで資源を持続的に維持する手法の可能性を,ロジスティック方程式を拡張した微分方程式モデルによって分析した.その結果,利用者を外部から招く手法は,過剰利用が原因で環境を消耗させるリスクがあるが,環境に空間的な広がりがあるならば,そのリスクを低減できることが分かった.