「脳の世紀」と名付けられた21世紀の脳科学の行き先には, ヒトの「こころ」のメカニズムの解明という大きな目標が掲げられてきた. 楽観的な脳科学者たちが, 「こころ」のメカニズムの解明まではあと一歩だと述べているのにもかかわらず, 今日の社会の中では, ヒトの「こころ」についての疑問は増えていく一方であり, 納得のいかない社会現象に戸惑いを感じることが多い. 本来, ヒトの世の全ての営みは, ヒトの脳によって実現されていると言っても過言ではないはずなのに, これらのような今日の脳科学では説明困難な現象がかくも多いのは何故か, どうすれば脳科学によって「こころ」の解明に近づくことができるのかについて考えてみたい.