2016 年 48 巻 4 号 p. 241-246
Duchenne型筋ジストロフィーの責任遺伝子であるジストロフィンがクローニングされて四半世紀が過ぎた. ジストロフィンが同定された当時は, すぐにでも遺伝子治療が実現するものと期待されたが, 残念ながら未だ臨床に応用されてはいない. 一方, 変異ジストロフィン遺伝子からの遺伝情報を修飾することによる分子治療の開発が進み, 現在多くの治験が行われている. 「エクソンスキッピグ誘導治療」は, 1ないし数エクソンの欠失による本疾患症例に対し, アンチセンスオリゴヌクレオチドによってスプライシングの過程で欠失領域に隣接するエクソンスキッピングを誘導しアミノ酸読み取り枠のずれを修正するものである. 私たちはアンチセンスオリゴヌクレオチド静脈内投与により筋組織においてジストロフィン蛋白発現を誘導し得ることを, 世界で初めて明らかにした. 一方, 「ナンセンス変異リードスルー誘導治療」は, ナンセンス変異よる本疾患症例に対し翻訳の過程でナンセンス変異を読みとばすものである. 現在, 私たちはarbekacinによるナンセンス変異リードスルー誘導治療の医師主導治験を行っている. 世界各地においてもこれらの分子治療の治験が行われており, 有効性を示す結果が示されつつある. これらの治療が一日も早く多くの患者さんのもとへ届けられることが期待される.