抄録
治療服用量のValproate sodium (VPA) を反復服用した際に, 定常状態に達したdipropyl acetateの血中濃度と服用量とがどのような相関を示すか, 年齢要因があるのか, そしてdipropyl acetate濃度に他の抗てんかん薬たとえばPhenytoin (PHT) やPhenobarbital (PB) が相互作用をおよぼすか否かについて検討した.
1.VPAを含む抗てんかん薬を持続服用しているてんかん患者193名について, VPA単剤治療のもののdiprophyl acetate濃度125アッセイ (16歳以上の成人40, 7-15歳の小児50, 1-6歳の小児35), およびPHT・PBのいずれかあるいはその両者をVPAと併用している多剤治療のものの92アッセイ (成人40, 7-15歳の小児33, 1-6歳の小児19) についてつぎの結果を得た.
1) 単剤治療下にある患者計116例からの125アッセイのみをとりあげて, VPAの服用量とdipropyl acetate血中濃度との相関をみると, 年齢要因が明らかに認められ, 同じ服用量 (mg/kg/day) を服用している成人の血中濃度は1-6歳の小児のそれよりも有意に高く, 7-15歳の小児はほぼその中間に位していた.すなわち, 20±2.5mg/kg/dayのVPAを服用していた際のdipropyl acetate濃度は, 成人128.5±19.3μg/ml, 1-6歳の小児92.4±17.6μg/mlであり, この差は有意であった.換言すれば, 100μ9/mlの定常状態濃度を得るためには, 成人ではおよそ15mg/kg/day, 小児では20mg/kg/dayのVPAを服用する必要がある.
2) 同じ年齢群について, VPA単剤治療下のdipropyl acetate濃度を多剤治療の濃度とくらべると, 前者では後者よりも30-40%程度dipropyl acetate濃度が高目となる。成人 (計39アッセイ) について, VPAを15±2.5mg/kg/day服用していた際に, 単剤治療のdipropylacetate濃度は111.3±18.0μg/ml, 多剤治療86.5±14.9μg/mlであり, この差もまた有意であった.
II.Dipropyl acetate血中濃度におよぼす他剤併用の影響を検討するためにDHTをとりあげ, 成人患者3名と健康成人1名について, 両剤のレベルを継時的に追跡した.
VPA単剤服用の下で定常状態に達したdipropyl acetate濃度は, 新たにPHTを追加併用すると, およそ30-45%下降した.PHTを中止した際に, dipropyl acetate濃度は再び上昇し, VPA単剤服用時の濃度範囲に上昇することが1例についてたしかめられた.