脳と発達
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聴性脳幹反応の神経発達史的変化と電気反応聴力検査への応用
松沢 一夫関 章司藤田 秀樹清水 信三本間 哲夫
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1981 年 13 巻 4 号 p. 318-328

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抄録
発育, 聴力ともに正常である新生児から成人までを9年齢群に分けて, 聴性脳幹反応 (auditory brain stem response, ABRと略) の発育にともなう潜時と振幅の変化について標準値を作成した. ABRはI波からVII波までの陽性のピークをもつが, I, III, V波は潜時, 振幅ともに安定して出現した.
I波の潜時は生後2ヵ月で成人の潜時に等しくなったが, III波は2歳, V波は3歳で成人に等しくなった. 一方, 振幅は潜時に比較すると個人差が大きく, 各群での標準偏差も大きかつた. I波の振幅は新生児から成人までほぼ一定していて各群間で有意差がなかった. III波の振幅は新生児から3歳児までは総てのピーク中で最大であったが, それ以降はIII波よりもV波の振幅のほうが大きかった.
また, このうち7例については, 出生後1週以内から2歳まで, 継時的にABR検査を行ない, その縦断的変化を観察した.ABRの波形には個人差があり, 同じ月・年齢でもそれぞれ異なっていた. しかし, 同一例の波形は, 発育による潜時の短縮および振幅の変化はあるものの, 特徴的であった.
ABRの七つのピークはそれぞれ異なった出現域値を示した.音圧が上昇するにつれて, まずV波が15dBで出現し, 続いてIII, VI波が35dBで出現した. I, II, VII波は55 dBの高音圧ではじめて現れ, IV波は75 dBでV波から峰分かれした.
ABRの潜時は音圧の低下に伴い延長した. しかし, 音圧の低下と潜時延長の関係は直線的ではなく, かつ各波で異なつていた. このうちV波は域値も低く, 安定して出現していたので, V波の潜時延長を聴力損失の指標にしたが, 85dBで0.7msecの潜時の遅れがおよそ30dBの聴力損失に相当した. 振幅は音圧の上昇に伴い増大し, 55-75dBで増大する割合が大きかった.
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© 日本小児小児神経学会
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