抄録
着床前診断は出産か中絶かという決断に親が直面しないことが利点に挙げられる. 一方, 遺伝カウンセリングの現場では, 絨毛や羊水による出生前診断を受けた親が「児が罹患」という診断を受けた時, 悩み, 考え, そして妊娠を継続して出産を迎える決意に変わることもある. このプロセスは着床前診断では生じ得ない. その受精卵は子宮に戻されず, 廃棄ないし半永久的に凍結保存されるからである. どんなに短命であろうと, 精一杯, 命を輝かせて生きている「重篤な遺伝性疾患」をもつ子ども達を胚の段階で選別し, 廃棄するという着床前診断の問題点を熟慮し, 意見を述べていくことが, 疾患をもつ子ども達の代弁者である小児神経専門医の務めであろう.