日本温泉気候物理医学会雑誌
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原著
運動後の入浴時の血中乳酸値の変化に対する入浴前後の安静による影響
早坂 信哉太田 眞田村 京子田中 博史宮城 修遠藤 俊郎
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2015 年 78 巻 2 号 p. 138-146

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抄録

背景:正しい入浴法として運動後30分〜1時間の安静を経て入浴することが一般的に推奨されているが、これまで、運動後、入浴する前に安静時間を取ることの有無が、疲労回復にどのような影響があるかは明らかではなかった。そこで、本研究では運動負荷の後、入浴前の安静の有無によって疲労回復、特に血中乳酸値の変化にどのような影響があるかを明らかにすることを目的とした。
方法:健康な成人男子10名に文書による説明をし、書面に署名をして同意を得たのち、トレッドミルによる運動負荷をBruce法によって行い血中乳酸濃度を高めた後、以下の実験A、Bを行った。(A)運動負荷後60分間の安静を経た後、38°Cの水道水温水に10分間全身入浴を行う。(B)運動負荷後、直ちに38°Cの水道水温水に10分間全身入浴を行い60分の安静を取る。体温、血圧、心拍数、血中乳酸濃度を①実験開始前、②運動負荷後、③実験終了時、に測定した。さらに運動負荷後から実験終了時にかけての血中乳酸濃度低下量とその低下率を算出した。A、Bで各項目の比較をpaired-t検定を行った。
結果:運動負荷:実験A、Bで最大収縮期血圧、最大拡張期血圧、最大負荷運動強度や最大心拍数に差はなかった。血圧:収縮期血圧、拡張期血圧とも各測定時において有意な差はなかった。脈拍:実験終了時で実験Aの方が有意に脈拍が速かった(実験A vs B: 90.4±18.2 vs 79.6±11.6 bpm、p = 0.04)。その他の測定時では差がなかった。体温:実験終了時で実験Aの方がやや体温が高かった(実験A vs B: 36.4±0.4 vs.36.1±0.3 °C、p = 0.05)。その他の測定時では差がなかった。血中乳酸濃度:実験開始前の血中乳酸濃度が実験A(6.6±4.7mmol/L)は実験B(2.0 ± 1.4 mmol/L)と比較して有意に高かったが(p = 0.02)、運動負荷後、実験終了時では差がなかった。血中乳酸低下量、血中乳酸低下率ともに実験A、Bで差はなかった。
結論:運動負荷の後、38°Cの水道水温水への入浴前の安静の有無によって血中乳酸低下量、血中乳酸低下率ともに差は認められなかった。運動後の疲労回復には、入浴前の安静の有無は影響がない可能性がある。

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© 2015 日本温泉気候物理医学会
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