本研究では,日本語母語話者と中国語を母語とする日本語学習者を対象に,丁寧な発話態度に関する音声的特徴の違いについて分析し,比較を行った。生成実験では,心理的負荷の異なる2つの状況を設定し,依頼表現を発話してもらった。その結果,心理的負荷の高い発話には,持続時間が長く,F0最大値が小さく,F0レンジが狭いといった音響的特徴が見られた。さらに,「恐縮」の発話態度を表すと考えられる延伸やりきみなど,非流暢性を表す特徴と,気息性の高い声が使用されることが確認された。一方,学習者は異なるイントネーションパターンを示した。発話がどのくらい丁寧に感じるかという知覚実験を行ったところ,学習者と母語話者の反応は類似していた。このことから,学習者は日本語の丁寧な発話の生成方法が母語話者とは異なるものの,知覚の面では母語話者との違いがより小さいことが示唆された。
南琉球宮古島の諸方言には語頭に鼻音連続がみられ,宮古島方言の一つ池間方言には摩擦ノイズを伴う無声の鼻音が存在する。本稿では池間方言話者2名のreal-time MRI資料を用いて鼻子音の調音を検討した。その結果,無声鼻音で始まる語頭の鼻音連続[n̥n](無声の[n]に続く有声の[n])は[(n)n]に比べ口蓋帆の下降が大きい傾向がみられ,[m̥m](無声の[m]に続く有声の[m])は後続母音が同じ語の[m]に比べ口腔領域が広い傾向が認められた。どちらも声道内に取り込む呼気量を増加させ,気流のノイズを強める効果をもつと考えられる。[m̥m]と[n̥n]では口蓋帆の下降と口腔領域の拡大のいずれか自由度の高い調音器官を主に用いていると考えられる。また語末の/n/の調音は先行母音と同化する調音になっており,日本語標準語に関する近年の報告との共通点がみられた。
The present study investigated whether the articulation ability and speech rate control of people who stutter (PWS) were different from people who do not stutter (PWNS). Twenty PWS and 20 PWNS performed oral reading and speech shadowing. Speech and articulation rates and, the number and duration of pauses were analyzed. PWS showed slower articulation rates with more pauses than PWNS during oral reading, but not during speech shadowing. This suggests that PWS control speech differently under the two conditions. Furthermore, PWS showed a significant negative correlation between articulation rate and number of pauses during oral reading.