本稿では八重山諸島の黒島と小浜島のデータに基づいて,両方言の祖語の韻律体系を再建する。本稿は八重山祖語を一種の「声調」体系として捉え,そこに存在していた3種の韻律型(A型,B型,C型)の祖型としてそれぞれ*L, *LH, *HLを再建する。そしてC型は1つ目,B型は2つ目の音韻語にプロミネンスが出現するような韻律体系を持っていたと推定する。本稿では黒島方言と小浜島方言の祖体系の段階では,そのC型とB型に実現するプロミネンスは,各音韻語の末尾音節に出現するピッチの上昇だったと推定する。また本稿は現代黒島方言のc型の韻律型の観察に基づき,黒島方言ではC型の文節の頭にあらたにH音調が発生することによって*HLHのような重起伏音調となり,その後それが*HLH>HLLのような通時的変化を経ることによって,ピッチ下降によるプロミネンスがこの方言に成立したと推定する。