耳疾患が原因となって頭蓋内に炎症が波及する耳性頭蓋内合併症は, 抗生物質が発達した今日においてもその症状はきわめて重篤であり見逃してはいけない疾患である。今回, 我々は2002年1月から2011年12月までの10年間において耳性頭蓋内合併症を5症例 (S状静脈洞血栓症1例, 硬膜外膿瘍1例, 髄膜炎3例) 経験した。乳様突起炎に伴うS状静脈洞血栓症 (7歳, 女児) は抗菌薬による保存的加療で改善した。慢性中耳炎より発症した硬膜外膿瘍症例 (60歳代, 男性) は脳外科的手術, 耳科手術を行った。細菌性髄膜炎を反復した先天性内耳奇形症例 (40歳代, 女性) は手術により, 中耳-内耳の異常交通を遮断し, 以降, 髄膜炎は再発していない。また, 他2例は真珠腫性中耳炎から波及した細菌性髄膜炎であったが, 耳科手術を行った。耳性頭蓋内合併症の頻度は必ずしも高くはないが, その存在を常に念頭におき, 日々の診療を行う必要があると考えた。