抄録
呼吸上皮腺腫様過誤腫は, 片側あるいは両側の鼻腔に多く発症する良性の腫瘤で, ポリープ様の腫瘤を呈する。 鼻閉, 鼻漏, 嗅覚障害など副鼻腔炎と同様の症状を示し, 臨床的には慢性副鼻腔炎として取り扱われている場合が多い。 組織学的には,粘膜下の腺腫様増殖や線毛呼吸上皮が一列に並んだ腺組織の著明な増殖が特徴である。 発生が最も多いのは, 嗅裂部, 鼻中隔とされ, 臨床的には好酸球性副鼻腔炎との鑑別をも要する。
今回我々は好酸球性副鼻腔炎の診断基準である JESREC Study (Japanese Epidemiological Survey of Refractory Eosinophilic Chronic Rhinosinusitis Study: JESREC Study) の診断基準から, 手術前には好酸球性副鼻腔炎高度リスク群と判断したが, 手術標本から病理組織学的に呼吸上皮腺腫様過誤腫と診断するに至った症例を経験したので報告する。 症例は26歳女性。 4年前より気管支喘息, 1年半前より嗅覚障害, 鼻漏を自覚した。 初診時, 両側鼻腔内にポリープが充満し, CT 上嗅裂, 篩骨洞内に軟部組織像を認めた。 血中好酸球数は7.3%と上昇していた。 以上より, 手術前は JESREC Study の診断基準から好酸球性副鼻腔炎高度リスク群と判断した。 両側内視鏡下汎副鼻腔手術 (IV型) を施行し, 嚢胞状病変を含んだ肥厚性嗅裂粘膜と中鼻道ポリープを病理に提出した。 組織学的に, 好酸球浸潤は少なく, 粘膜内の腺組織は胞巣状に多数増生しており, 加えて単層性の管腔構造に好酸性に染まる粘液が貯留している像を呈していたことから, 呼吸上皮腺腫様過誤腫と診断した。 手術後, 経過は良好で, 再発は認められていない。 現行の好酸球性副鼻腔炎の診断基準では手術前の組織学的所見に関しては必須項目ではなく, その手術前診断は困難である。 呼吸上皮腺腫様過誤腫の場合, 完全切除すれば再発が少なく, 余剰な治療を必要としない。 慢性鼻副鼻腔炎の除外診断の1つに呼吸上皮腺腫様過誤腫という病態の可能性を考慮すること, また手術後の病理学的診断が重要であると考えた。