2023 年 66 巻 4 号 p. 161-168
症例は75歳男性で3日前からの頭痛と受診当日の黒色の後鼻漏で当院受診した.頭部CTにて蝶形骨洞に軟部濃度陰影と右内頸動脈隆起の骨壁欠損を認め,造影MRIから真菌性の蝶形骨洞単独病変(Isolated Spenoid Sinus Disease:ISSD)の疑いで入院となった.血管造影では右内頸動脈に仮性動脈瘤は認めなかった.真菌性ISSD疑う症例に対し,術中の内頸動脈損傷の危険性を考慮し,右内頸動脈塞栓術を待機の上,右内視鏡下副鼻腔手術を行った.手術は内頸動脈損傷もなく終了した.蝶形骨洞内粘膜の病理検査,内容物の培養から非特異的炎症によるISSDの診断となった.ISSDは強い頭痛を主訴に受診され,非特異的炎症が原因であることが多いとされ,本症例も同様であった.少量の鼻出血が内頸動脈損傷の先行症状となることがあり,内頸動脈隆起の骨欠損が術中の内頸動脈損傷の危険性を高めるため,本症例は内頸動脈損傷を考慮した対応を行った.我々が渉猟し得た限り,内頸動脈損傷を来し鼻出血を来した症例31例中,内頸動脈の仮性動脈瘤を認めなかった症例は3例だった.以上から画像評価で仮性動脈瘤が認めなかった場合でも,蝶形骨洞炎の内頸動脈損傷を考慮した対応が望ましいと考える.