抄録
昭和45年から平成元年までの20年間に手術した慢性穿孔性中耳炎の初回手術例419耳において耳小骨の可動障害例は121耳28.9%に認められた。耳小骨の可動障害の原因として鼓室内の硝子様変性や石灰化によるもの (いわゆる鼓室硬化症) は62耳14.8%で, ツチ骨前方の固着 (前靱帯や外側靱帯の線維性, 骨性の固着) を認めたものは48耳11.5%, また上鼓室での骨増殖や骨性, 線維性癒着によるツチ骨やキヌタ骨の可動障害は11耳2.6%であった。そしてこれらの可動障害例は年々増加の傾向を示している。性別では鼓室硬化症やツチ骨前方の固着例は女性に多い傾向にあった。また鼓室硬化症においては残存鼓膜の石灰化との間に密接な関係が認められた。これら可動障害例の気導聴力像は低音障害型を示すものが多く見られた。慢性穿孔性中耳炎の手術においては単なる鼓膜形成ではなく, 鼓室形成術の1型を行う必要のある例が少なくないことを念頭におくべきである。