抄録
2001年7月から2009年1月までに顔面神経減荷術の対象となった高度顔面神経麻痺20例、21耳全例に対して、キヌタ骨をはずさずに行う減荷術(経乳突法)を行った。その中の18例、19耳の術後聴力について、キヌタ骨を一旦はずす従来法との間で比較を行った。術後の平均気導聴力(3分法)は、1耳で10dBの域値上昇を認めたが、その他の症例では変動がなかった。4kHzあるいは8kHzのいずれか一つの周波数において、10~15dBの域値上昇が9/19耳(47%)に認められた。術後、一過性の耳鳴が2耳に認められた。以上の結果から、本手術法は従来法よりも術後の聴力変化は軽度であることが明らかとなった。しかし、顔面神経水平部から膝神経節までの減荷には、キヌタ骨にバーが触れないようにする工夫や内耳損傷を回避する技術が必要となる。したがって、キヌタ骨をはずして行う従来の減荷術を習熟してから慎重に行うべき手術法であろうと考えられた。