抄録
鼓膜正常の伝音難聴の確定診断には、ときとして苦慮する場合がある。1997年から2010年までに鼓膜正常の伝音難聴に鼓室試験開放を行った自験例の疾患内訳は、耳小骨奇形、耳硬化症、先天性真珠腫、外傷、鼓室内腫瘍、その他であった。術前検査によりいくつかの疾患の可能性に絞るが、最終的には鼓室試験開放により鼓室を確認した上で確定診断し、伝音再建等の治療を行うことになる。
今回我々は、両耳の伝音難聴が徐々に進行した鼓膜正常例を経験し、両耳を2回に分けて局所麻酔下に鼓室試験開放を行った。両耳ともキヌタ-アブミ関節の連鎖が緩く、アブミ骨の可動性はまずまずであったため、皮質骨小片および耳前部結合組織をキヌタ骨とアブミ骨の間隙に挿入するIII型インターポジションとし、術後良好な聴力改善を得た。本症例の術前診断上、手術手順上の問題点に関して、若干の文献的考察を加えて報告する。