2022 年 32 巻 2 号 p. 165-169
シスプラチンやアミノグリコシド等の耳毒性物質は蝸牛において活性酸素を産生し,c-Jun-N-terminal kinase(JNK),p38 mitogen-activated protein kinase(P38MAPK),AKT(protein kinase B)等の各種キナーゼ経路を活性化する.これらのキナーゼ経路は有毛細胞障害性または保護性に働く.セラミド,スフィンゴシンやそれらのリン酸化物(セラミド-1-リン酸[C1P],スフィンゴシン-1-リン酸[S1P])は様々な細胞機能に関与し,耳毒性物質による蝸牛障害におけるスフィンゴ脂質の作用をまとめる.
セラミド産生経路としてはde novo合成経路,スフィンゴミエリナーゼ経路が知られるが,耳毒性障害においてはスフィンゴミエリナーゼ経路を介してセラミドは産生される.セラミドは他のスフィンゴ脂質に代謝され,セラミドとスフィンゴシンは有毛細胞障害性に働き,C1P,S1Pは細胞保護性に機能する.S1Pの保護機序はS1P2受容体を介して発現され,C1PおよびS1PはAKT経路を活性化し,有毛細胞死を抑制している.耳毒性物質により産生されるスフィンゴ脂質は有毛細胞の最終的な生死の決定に重要な役割を演じる.