嗅覚では,刺激の検出を行う感覚センサ,すなわち受容体の多様性が色覚の百倍以上ある.これは,匂い分子の構造は多様だが神経伝達物質ほど強い分子間相互作用をもたず,1種の受容体だけが応答する特異的結合の濃度範囲が狭く,刺激特定のための要素情報の抽出には複数種の受容体信号の加算が必要なためと推測される.嗅覚中枢には,高感度で,より特異的な受容体の信号を利用して,重複の多い受容体センサの信号群から特徴的要素情報を自動的に強調する階層的情報符号化の仕組みがあると推定された.この仮説に関係する最近の研究を紹介する.