物理現象で熱を扱う際に最初に習うのが「比熱」の概念ですが,熱拡散率となると,その定義や物理的意味の理解は,専門家を除いて,あまり一般的ではありません.測定にあたっては,さまざまな測定法(しかも原則として非定常法)が存在するため,どのような測定法を選択するかさえ判断を迫られることになり,これが状況を複雑にしています.加えて,伝熱学では熱伝達,熱抵抗という概念があり,最新の科学では熱伝導におけるスケールファクタやフォノンモードが論じられるとなると,実感としての熱伝導を理解する前に頭を抱えてしまう方も多いことと思います.本稿では,物性としての熱拡散率と比熱について,測定法や実験条件の選択を含めて理解するときの考え方を,線形応答理論と熱拡散長,および時定数の観点から解説したいと思います.