恐れなき取引は天国にも地獄にも―サイコパシー特性と株式投資におけるDisposition Effectの関連―

抄録

株式投資における選択は合理的な判断のみならず，認知・感情にも大きく左右される。特に，株価上昇時において早期に売却してしまうという非合理的かつ損失的選択であるDisposition Effect （DE） は，損失リスクへの恐怖によってもたらされることも示されてきた。しかしここで，感情刺激からの認知情報処理に対する影響が生じにくいとされるサイコパシー特性の高い者は，DEが生じにくいと予測される。そこで本研究では先行研究の手続きをより実際の場面に近づけ，連続的に株価が変動する状況を提示したうえで最適と思われる売却タイミングを尋ねるという投資シミュレーション課題を考案し，サイコパシー特性とDEの関連性について検討した。大学生274名を対象にGoogle Formを用いた集合式実験を行い，質問紙への回答を求めた。共分散構造分析の結果，株価上昇状況で，サイコパシー特性は損失への恐怖の低減を介して早期売却を抑制しており，結果として利益増につながり得ることが示された。しかし株価下落状況でもサイコパシー特性は損失への恐怖の低減および早期売却の抑制に結びついており，株価上昇時には成功を収めやすい一方，下落時には損失に陥りやすいことが示唆された。