抄録
「千と千尋の神隠し」の興行収入が過去の記録を更新するなど,映画館は活況である。映画館の経済波及効果はきわめて大きく,生産誘発係数は2.09である。しかし,映画館の現場にたずさわる人々からは依然として厳しい経営状況が続いており,景気はよくないとの声が聞こえる。映画産業の活況と現場の声とのギャップは何なのか。一般に経済波及効果はその産業の裾野にあたる産業が広いと大きくなると言いならわされているが,果たしてそのとおりなのであろうか。本論は経済波及効果の大小を決定する要因を明らかにし,次々と連鎖する裾野への展開によるよりも,最終需要が生じた産業それ自体の投入係数の性質によるところが圧倒的に大であることを実証的に確認し,映画産業の現場に生じたギャップのメカニズムを解明する。