抄録
15年ぶりにSNA の改訂作業が進行中である.といっても,1953年版のSNA から1968年版へ,さらに1993年版のそれへというような大規模な改訂が意図されていたわけではなかった.むしろ,当初の意図は,改訂後のSNA が1993SNA Rev.1という呼称をもつことが予定されたことからもわかるように,小規模な,主として,新しいSNA の実施上の問題に対処するための改訂であった.にもかかわらず,SNA の根源にかかわるとも思われるいくつかの提案が改訂案に含まれるなど,今回の改訂過程から,ちぐはぐな印象を受けることも事実である.本稿では,まず,1993SNA の2008年改訂の概要とその過程に含まれる若干の問題について議論する.残余の部分では,改訂の中心課題のひとつであったと考えられる資本としての無形資産(93SNA の「無形固定資産」)の取り扱いについて,私見を述べる.本稿の副題からも推察されるように,焦点は,生産過程における知識の役立ちの捉え方にある.最後に,他の無形資産についても若干の言及を行なう.