抄録
近年,チオ尿素をドーパントとし,Sをドープさせることで可視光応答性を持たせた二酸化チタン(TiO2) が報告されており,我々も検討を行なってきた。その結果,合成した試料のXPS測定においてS2pピークが試料表面のみに観測され,バルク内部には見られなかった。一方バルク内部にTi-N由来のN1sピークが観測された。またS2pピークは洗浄後には消失したことから,表面吸着した硫酸種由来と考えられる。これまでチオ尿素を用いてNのみをドープした例は報告されておらず,この結果は焼成条件を変化させても変わらないことから,Nのみがドープされた要因は前駆体合成時にあると考えられる。そこで,さらに我々は前駆体合成条件がドープ試料の合成に与える影響を調査した。前駆体合成時に水が過剰に存在すればTi-O-Tiが多く生成され,イオン半径の大きなS2- (1.84Å)はO2- (1.24Å)と置換できず,比較的イオン半径の近いN3- (1.46Å)が置換されたと思われる。また,空気中で焼成しているため,S2- は即座に酸化され硫酸などS6+ となったと考えられる。また,このドープされた元素の状態は尿素と同じであった。一方無水系で前駆体合成を行った試料では,バルク内部にNは観測されなかったものの,S4+が存在していることが明らかとなった。これは無水系においてTi-O-Ti結合の生成が抑制されたことによると考えられる。