2011 年 78 巻 2 号 p. 70-73
症例は71歳男性。胃体部から前庭部に1cm以下の隆起性病変を8個認めた。胃体中部後壁の10×8mm大の中心陥凹を伴う腫瘍は生検でカルチノイドと診断し,ESDを施行した。病理にて一部粘膜筋板に接する可能性が示唆されたが,細胞異型は軽度,細胞分裂像はわずかだった。他の小ポリープはカルチノイド成分を認めなかった。患者本人の希望もあり,厳重経過観察とし,約2年間再発・転移を認めていない。H. pylori除菌治療にて多発していた過形成ポリープ,炎症性ポリープは消失し,高ガストリン血症も改善した。本症例は特発性であるためにType Ⅲに分類されるが,H. pylori感染に伴う高ガストリン血症によって発生し,Type Ⅰカルチノイドに類似した生物学的悪性度をもつ可能性がある。H. pylori感染及び高ガストリン血症を認める胃カルチノイドに対しては,内視鏡治療のみならず,再発予防にH. pylori除菌を行う意義があると考えられた。