2020 年 97 巻 1 号 p. 38-43
当院で入院加療された急性下部消化管出血364例のうち急性出血性直腸潰瘍(AHRU)38例の臨床的特徴について検討した.男性20例,女性18例,平均年齢77歳.Performance Status(PS)は3-4が61%.併存疾患として高血圧,糖尿病,悪性腫瘍を多く認めた.患者背景についてAHRU 38例,非AHRU 326例の2群にわけて単変量解析をしたところ,PS≧3以上の症例がAHRU群で有意に多かった.AHRU全38症例に対して大腸内視鏡検査が施行され,52.6%は内視鏡処置が施行され,44.7%は保存加療で経過観察となっていた.初回内視鏡止血処置の割合は,クリップ止血術のみが11例,凝固止血7例,クリップ+凝固止血術1例,クリップ+HSE 1例であった.再出血は29%で認められ,再出血11例と非再出血27例について単変量解析を用いて比較検討したが,有意差はなかった.AHRU 38例のうち入院中に死亡した例は24%で,原疾患や併存疾患などの増悪が主な死因であった.死亡例9例と非死亡例29例について単変量解析による比較検討では有意差はなかった.AHRUを認める例では,非AHRUの例と比較してPS3以上の例が有意に多かったが,ADLの低い重症例が多いことが原因と考えられる.基礎疾患や併存疾患の増悪で死亡する例も多く,内視鏡処置だけでなく,全身状態の把握と偶発症の管理が大事と言える.