1993 年 42 巻 p. 148-150
症例は76歳男性。胸やけ,嚥下痛が出現し,摂食不可能となり来院した。内視鏡検査で下部食道に辺縁が隆起した不整形の縦長のびらんを数個認めた。びらん部辺縁の生検組織片の免疫組織学的検索の結果,単純ヘルペスⅠ型(HSV-Ⅰ)による食道炎と診断した。ヘルペス食道炎は悪性腫瘍などによる免疫不全の患者や,剖検時に発見されることが多いとされてきたが,最近では健康成人を含む臨床例の報告も散見されるようになった。ヘルペス食道炎の内視鏡所見の特徴は,辺縁が隆起した浅い打ち抜き状のびらんや潰瘍の多発であり,サイトメガロウイルス(CMV)感染による食道炎と類似している。しかし病理組織的に,ヘルペス食道炎の感染細胞は潰瘍辺縁の扁平上皮細胞に,CMV感染の感染細胞はむしろ潰瘍底の線維芽細胞や血管内皮細胞にみられる。従って,内視鏡でヘルペス食道炎を疑った時は,びらん,潰瘍の底部と辺縁から生検を行うことが重要である。